2015年7月30日木曜日

クソの束と思考実験

僕はしばしばクソデッキを挙げて構築についてを考える。
それは良いものを知るためにその逆である「悪いもの」とは何かを定義するためであり、更には自分がそうなってしまわないための論理武装のためでもある。
自分の答えが正しくなかった時に、「何故勝てないのか」を考えるのは重要な事だと思う。
「これはクソだ」と思っていても、一ヶ月後くらいに同じことをしていたりする。
この記事は僕も度々陥る「勝てないアイデア」を咎めるためのものである。たぶん。


というわけで今日のうんこ。

4:《マグマの洞察力/Magmatic Insight》
2:《苦しめる声/Tormenting Voice》
4:《一日のやり直し/Day's Undoing》
4:《溶鉄の渦/Molten Vortex》
12:《島/Island》
30:《山/Mountain》
4:《シヴの浅瀬/Shivan Reef》


見て分かるゴミの束である。
これが人気なのは「ヤバいものを突付きたがる」群集心理のせいだと思う。思いたい。そうだよね?

ところで何故これがダメか。
「どう見てもヤバい」とかじゃなくて、論理的に追求してみよう。
デッキの内容に違いはあれど、もしかしたら同じことをしようとしている「クソの束」はいっぱいあるかもしれないから。ていうか絶対その辺に転がってると思う。


というわけでサンプル。

40 《ショック/Shock》
20 《山/Mountain》

勝ち方は言うまでもなく、「本体にショックを10発撃つ」である。
「溶鉄の渦」が「土地をショックに変える」カードなので、これをベースに考えてみよう。
これだけ言えば単純だけど、ちょっとした計算をすればこのプランが破綻してることに気づくと思う。

勝つための方法はショック10発だが、このデッキの勝利条件は「10発のショックまでに自分が死んでいない」なのだ。
分かりやすくするために先手がショックを10発撃つまでの流れを考えてみよう。

土地1でショックを毎ターン一発づつ撃つ->10ターン(消費枚数11枚)
土地2でショックを1発->2発->2発・・・と撃つ->6ターン(消費枚数12枚)
土地3でショックを1発->2発->3発・・・と撃つ->7ターン(消費枚数13枚)

土地3パターンでキルターンが伸びた。
1t目に1発、2t目に2発、3t目に3発と動くと消費するカードの枚数は9枚。
先手ならこの時点で手札が無くなっている。後は引いてきたものを1発づつ撃つしかない。
しかもこの計算は完璧に動けることが前提なので、

土地2でショックを1発->2発・・・と撃ったけど途中で土地を2枚引いた->?ターン

みたいな自体が頻繁に発生するだろう。期待値の大した事なさに加えてブレが大きすぎる。
更に言うとこの戦略は「普通に組まれたデッキ」の動きを全く想定していない。

例えば、

40 《灰色熊/Grizzly Bears》
20 《森/Forest》

みたいなデッキが、2t熊、3t熊、4t熊、5t熊と動いた時のダメージ量を見てみる。

0->0(熊召喚)->2(熊召喚)->4(熊召喚)->6(熊召喚)->8(死亡)

6t目に無事死亡した。キルターンこそ同じだが消費するカードは6枚である。ショック殺法の半分だね。
ということは余剰のカードを「更に高速で相手を殺す」ことに使えるのだ。
例えば呪文が「熊、熊、熊、マナエルフ」だったら。

0(エルフ)->1(エルフ攻撃、熊)->2(熊攻撃、エルフのマナで熊が2体)->7(全員攻撃)->7(全員攻撃)

5tで19点だ。4tと5tはマナに余剰があるので19を20にする方法はいくらでもある。消費枚数も7枚なので手札にも余裕がある。
対してショック殺法はマナも手札もカツカツだ。しかも常にベストな動きをしてやっと熊4体と同じ働きだ。
更に言えば世間に存在する大抵のデッキのクリーチャーは熊より強い。
1マナクリーチャーが出てきたとか、3/3が出てきたとか、速攻持ちが出てきたとか、回復されたとかされるともう終わりだ。

つまりショック殺法は勝てない。
そこから更に手札とマナを消費する「溶鉄の渦」デッキが勝てるわけがないのだ。以上証明完了。


加えて言ってしまえば上の熊殺法も相手に3/3が1体居るだけであっさり瓦解する。
上の熊デッキ+αもクソの束なのだ。
マジックの「リミテッドの」デッキ構築はそこから更に軍拡競争が続き、基本的には睨み合いの末どちらかが押し負ける。

もちろん構築戦はそれよりも過激なメタの循環があり、それぞれが勝ち筋を押し付けあう。
これが起こらないのは余程のお花畑かアブザン長久のミラーマッチくらいだろう。

ここで気をつけたいのは、自分のデッキがショック殺法になっていないかだ。
もしくは熊殺法や、それと同レベルの争いをしていないかだ。

高速デッキを作るとして、一枚あたりのダメージ期待値が3を下回ったらそれはショック殺法とだいたい同じだ。
アグロデッキを作るとして、熊並みのクリーチャーしか居なかったらそれはまさしく熊殺法だ。
コントロールデッキを作るとして、熊が並ぶデッキといい勝負をしていたらコントロールとは言えないだろう。
コンボデッキを作るとして、あれこれ考えた結果がショック10枚と変わりない戦果だったらそれはただのオナニーだ。

もちろん本来考えるべき仮想敵はこんな低レベルな連中じゃなくて、本来は

ウィニーデッキや高速アグロの早さに打ち勝つには何をするのか?とか、
コントロールに勝つための十分な早さを確保するためには?とか、
ミッドレンジが流行っている環境でそれに勝つには早いデッキ?それとも遅いデッキ?とか、
強いコンボが流行っているけど、自分のデッキで可能な対策はどれか?とか、
何か凄いデッキが完成しそうなので仮想敵とガンガンスパーして完成度を上げよう!とか、

後はメタがぐるぐるしてみんなが勝つためにあれこれ考える。ドンピシャな解答か今日の人が勝つ。
つまりゲームを成立させるためには大なり小なり相手のことを考えなきゃいけない。
もちろん対応するだけじゃなくて、「相手に勝てるか」を考えなければ成立しない。

こうならないためにもデッキはしっかり考えよう。片足突っ込んだらデッキ解体の日。